授賞式から一夜明け、気分良く目覚めた朝。
この日は11:30にセントジュリアンのカフェでブランチ予定。だった。だったのだ。
運命の歯車が狂ったのか、これが運命だったのか。
正午を境に、病院1軒目→病院2軒目→緊急入院と怒涛の展開。
マルタで初めての病院生活がスタートします。
■朝、セントジュリアンでブランチ予定
会う約束をしていたのはマルタ留学中の留学生の方。
この方とは、出会ってからかれこれ3年経つ。
2016年に私が会社を辞めてフリーランスとなり、出版を目指す傍ら留学相談会などを始めて間もない頃に来てくださった方だ。
それ以降、マルタ交流会、トークイベントなど様々に足を運んでくださり、少し何年か後の留学を目指しコツコツと地道に3年かけて準備、ついに実現されてのマルタ留学だった。
マルタ滞在の時期が重なり、嬉しい再会inマルタを心待ちにしていた。
↑のセントジュリアンにあるお店・CRUSTでブランチ後は、彼女は語学学校の授業があるため、私は午後は一人で観光に出ようと思っていた。
買ったばかりの私史上最高の一眼レフカメラ・Sony α7Ⅲ(のちにカメラを手放し幻となる)を携えてのマルタ旅!
これで撮りまくって、マルタ写真をアップデートしていくぜ〜!と充実した1日となるのを楽しみに、泊まっていた友人宅マンションを出発した。
▼CRUST
64, 65 Mensija St, San Ġiljan, マルタ
■急展開、滑って転んでマルタで骨折
友人宅のマンション敷地内を出る際、施錠された門の扉を開けるために、ボタンを押さないといけない。
まだ滞在3日目の朝、慣れない操作で「ボタンはえーっとどこだ…あ、これだ」と見つけた赤いボタンを押そうと、一歩前に脚を出した瞬間。
私の視界は、真っ赤なドアのボタンから、真っ青なマルタの空へと一瞬で切り替わった。
ツルツルに磨かれた新築マンションの石の床。
脚を滑らせ、ボタンを押そうと伸ばした右腕の肘から床に落下。
全体重が右肘にかかって地面に落ち、自分の右肘に尋常でないことが起きているのが理解できた。
こうして私は、留学生の方との約束へ出かけた矢先、転倒してマルタで骨折したのだった。
この時に思ったこと。
・約束に遅れる。待たせてしまってどうしよう。
・救急車を自分で呼ぶか?マルタ人友人に連絡するか?日本人知人に連絡するか?
・腕を触ったら…あれ?私の肘が肘でない(陥没している…)
一瞬でいろんな考えが浮かんだが、次第に息ができなくなってきた。
あれ?あれれ?私、マルタで死ぬのかな?
初めて死を感じた体験だった。
息苦しく、視界の左右が暗くなって狭まり、立っていられなくなった。
(後から知ったのだが、骨折した際、体を守ろうと患部に血を送るため、突発的に貧血になる症状らしい。)
マンションの敷地内、ほぼみんな仕事に出ているのだろう。
誰ひとり通らない静かな敷地内で、一人息絶え死んでいくのか…と、快晴のマルタの空を見上げながら、もう立てない…と地面に寝転んだ。
しかし、このまま死ぬわけにいかない。
夕方友人が仕事から帰ってきて、自分のマンション敷地内で死んだ私を発見するのは可哀想過ぎる、と考えた。
まず友人に電話。
今起きたことを伝える。すると「救急車を呼ぶからそのまま待ってろ」という。
英語だけだときちんと伝えきれていないかもと心配になり、日本人の知人の方にも電話する。
意識朦朧でFBメッセンジャーを開けると、一番上に表示されたのが、昨日着付けでお世話になり連絡をしていた美容師さんだった。
そのまま美容師さんへ連絡すると仕事中(恐らくウェディングのヘアメイクかなにか多忙)で、事情を汲み取ったがすぐには動けないため、他の日本人在住者へ連絡を回してくれたらしく、次々に「大丈夫?何が起こったの?」と逆に連絡が入ってきた。
とりあえず、人に伝えたから安心。
このままマルタで息絶えても、何が起こって林が死んだのか、理由が分かる様になったと安堵。
しかし何より、ブランチの約束を待たせてしまっているどうしよう…でもこの状態だと動けない…と心配に。
約束の10分前となってしまったが、意識朦朧の中メールを送る。
「家を出る時に怪我をして行けそうにありません。
病院に行かないといけないレベルかもすみません。」
道路に寝転んだまま、とりとめのない内容だったがメールを送った。
きっと待ち合わせ場所にすでに来ていたであろうに、ブランチをすっぽかし楽しみにしていた再会ができず申し訳なかった。
この転倒時、命拾いしたラッキーだった点がある。
・一眼レフカメラのセットをリュックに入れ背負っていた
→真後ろにすっ転んだがリュックのおかげで頭は全く打たなかった。一眼レフカメラセットが重くてバランス崩して転倒した説もあるが、クッション代わりとなり大事に至らなかった。
・友人の部屋が門の真横だったため、友人宅wifiが使えた
→携帯はフリーwifiでしか使えない状態だったが、外まで飛んでいた友人宅wifiのおかげで、Facebook電話で連絡してSOSできた。これなかったらマジでSOSできず死んでた。
今って、友人の携帯番号なんて、知らない人の方のが多くないですか?
FBやLINEなど、SNSやメッセンジャーアプリでやりとりしていると、携帯番号を交換する必要もないし、知らない方が多い。
が、こういう緊急時を考えると、
・海外で連絡できる人の携帯番号は、あえて聞いておく
・海外滞在では、フリーwifi利用でなくSIMフリーでいつでも・どこでも利用できるようにする
のが安心だと思いました。
■イケメン天使が現れ命拾い

起きる体力も気力もなく、ジタバタしたら余計息が出来ず死に近づくと思い、静かに寝たまま目をつぶり、救急車の到着を待った。
10分ほど経ってか、
「Are you OK?」
声が聞こえた。
目を開けると、ひげを生やしたイケメン(多分イタリア人)が目の前に。
地面に寝転んだ無様な姿をイケメンに見られるなんてー!と、こんな状況であっても感じる恥じらいと、死にかけているしもうどうとでもなれー!という開き直りとが半々。
「水でも持ってこようか?なにか手伝えることはある?」とケアしてくれた。
「友人がもうすぐ来てくれるから大丈夫、ありがとう」と、ずっと付き合わせるのも悪いなと思い伝えたが、彼は一人だと不安だろうとずっとそばに付き添ってくれた。
しばらく待っていると、血の気が戻り少し動けるように。
先ほど在住日本人の方と電話した際に言われた、「パスポート(またはパスポートのコピー)を持っていないと病院で診察できない」を思い出し、イケメンにお願いして、一緒に部屋に取りに行ってもらう。
マンションの建物で、私が友人からもらった鍵だと開かない箇所があったが、イケメンが管理人さんに連絡してくれて、難なく解錠してもらい部屋に入れた。
知らない人だが同じマンションの住人だし、こんな緊急時に盗みをするアホはマルタにいないだろうと思い、イケメンにも部屋に入ってもらい「腕が動かせないから、スーツケースからパスポートを取ってきてくれる?」とこの際甘えて頼ってみた。
元気になってきたので、イケメンには「もう大丈夫ありがとう」と御礼を言ってお別れ。
外で再び待っていると、仕事を早退した友人が駆けつけてくれた。
▼マルタで怪我して緊急事態を経験して思ったこと
・緊急時のガイドブックは役にたたない。ガイドブックに載っている連絡先を事前に、携帯の連絡先やメモ帳に入れておこう。
→救急車、病院の連絡先を本を開いて調べている暇も余裕もない。すぐに電話をかけられるよう、携帯に予め登録しておくのが安心!!
・パスポート(またはパスポートのコピー)は、出かける時はいつでも持っておこう。
→いつ何時怪我、病気をするかわかりません。海外の病院で診察する際は、ID代わりになるパスポートNoが必要のため、パスポートは最重要!!
・クレジットカードも外出時に最低1枚は持っておこう。
→急な診察、突然の入院・手術なんてことはある!診察は先払い、受付時にデポジットを払う場合もあります。診察だけならまだよいが、入院手術となると大金。大金となる現金を持っていないなら、カード払いできるようにしておこう。
■病院1:モスタドーム横モスタ ヘルス センター
マンション門の扉が勢いよく開く。
「Kayoko!!」
友人の驚いた声。
そりゃそうだ。自分のマンションの敷地内で、友人がぶっ倒れているのだ。
救急車が来ると思い、再び地面に寝て待っていた私は、自分の名前を呼ばれて目を覚まし、まだ生きていたことに安心した。
友人曰く、救急車を呼んだが手配できず(マルタはスピードを出す車が多く交通事故の救急搬送が多い)、自分で連れて行ったほうが早いと、車で病院へ連れていくために仕事を切り上げて戻ってきてくれた。
本当は、マルタで一番大きな国立マーテルデイ病院に行くのが良いのだが、まずは早く診療してもらうために、近所で大きめの街の診療所へ。
マーテルデイ病院は、国民IDを持っていれば無料で受けられる病院のため、人が多く診察待ちに時間がかかるのだ。
到着したのは、モスタドームの隣、モスタ ヘルス センター。
あぁ、ここ来たことある。
2016年取材旅で初めてモスタドームを訪れた時、病院の横にあるベンチでご飯を食べた。
午後15時からのモスタドームの開場に合わせて、軽く昼食を済ませたのだ。
パスティッツェリアで買ったソーセージロールとオリーブピザ、美味しかったなぁ。
各€1.00ほどで、ドリンク含めても300円ちょっとで済む、ジャンキーなマルタ食はこの組み合わせが一番好き。
そんなことを思い出しながら、まさかこの病院でお世話になるなんて…
病院内の写真はない。
それどころではなかった。
マルタ人友人が、受付から何から全部してくれた。
受付時は
・パスポートを提出(マルタ人にとっての国民ID代わり。コピーを取られる)
・デポジットでクレジットカードで先払い
をした。
あとは番号を呼ばれるまで診療を待つ、マルタで初めての病院体験。
緊急外来の人たちは他にも多くいるため、30分ほど待った。
診療してもらうも、明らかに肘が陥没しおかしな状態のため「うちでは簡易的な処置しかできない。紹介状を書くから、大きなマーテルデイ病院へ行って再診を。」と言われる。
しかし、マルタ人友人曰く「この”紹介状”が大事なんだ」と。
直でマーテルデイ病院へ行けば、緊急外来や事故による緊急搬送などで相当な時間を待たないといけない。
しかし、紹介状があり、症状がだいたい分かることで、直で行くよりもまだ早く見てもらえるという。
こういう時は、地元のマルタ人友人でよかったなと思った。
・受付で、マルタ人同士マルタ語で事細かに説明できる
・病院側にとっても、マルタ人がいることで安心感があり全てがスムーズ
・マルタの病院事情を知っているので、効率よく段取りを踏んで病院へ行ける
・受付、診察、病院の流れを把握しているので安心
自分ひとりだと、何をすればよいか分からなかったと思う。
マーテルデイ病院の緊急外来は、日本の病院と同じ流れだった。(通常の診察とは流れが異なります。通常診察はまた後日書きます。)
1・緊急外来で受付
2・受付時、デポジット用にお金支払い(クレジットカードOK)
3・名前が呼ばれるまで待つ
4・診察室へ
私はこのあと緊急入院となったため、全額支払いは退院時に。
▼Mosta Health Center
Trejqa Parrocca, Mosta, マルタ
■病院2:国立マーテルデイ病院で緊急入院
マーテルデイ病院へ移動。ここでも30分ほど待った後、名前を呼ばれ診察室へ。
事情を話し、紹介状を渡し、症状を見るやいなやこりゃいかんと腕をギブスでぐるぐる巻にされる。
このギブスの付け方が、マルタ式なのか海外式なのか分からなかいが面白い方法だった。
・包帯のような布を何十にも重ね、腕の長さに合わせてカット。
・それらにお湯を含ませると、ただの布かと思いきや、ちょっとセメントっぽく粘土化してくる。
・腕に巻き付けてぐるっと固定し、しばらくすると、粘土化していた布が固まってきて、ギブスとなる。
画期的で超簡単。どんな腕の形にもフィットさせられて良いなと思った。
大昔の小学生の頃、私は氷が張った水たまりで脚を滑らせ腕を骨折した時にギブスの経験がある(相変わらずドジ)が、こんな方法ではなかった。
帰国後、日本の病院に行った時に判明したのだが、やはりマルタ式は今では珍しいギブスの方法らしい。
ギブスを外して見た瞬間、看護婦さんが「わぁ!石膏(?)のギブスってまだあるの!?初めて見た!!」と興奮していた。
「他の看護師さんに見せに行っていい? ねぇねぇみんな見てみて!」と、私がさっきまで付けていた汗まみれで汚いギブスを持って行き、病院内で見せ物になったほどだ。
やり方も、ギブスも珍しいものだったらしい。さすがマルタ。
骨折した右腕にはギブス、左腕には血液検査用や点滴用の針。
このときの写真の時間を見ると15:54。骨折したのが朝11時頃。
2軒目の病院はしごで5時間が経過、お昼ごはんを食べていなかったのと、食事どころではなかったのもあったが、やっと落ち着いて空腹を感じた。
処置室に一人待機し、この後どうなるのか?帰れるのか?と待っていた。
すると、明後日手術するために入院、と告げられる。
骨折して、緊急入院して、明後日手術って、怒涛の展開すぎん?
私、昨日授賞式に出席したばかりだよ??
もう少し余韻に浸らせて?と思ったが、運命のいたずらか、マルタで初の病院生活。
これもまた、マルタのことを伝える使命を新たな領域へ踏み出せとの思し召しか。
マルタの神様は、MTAプレスアワード受賞の翌日、私に新たなマルタでの体験をプレゼントしてくれた。
入院することになったが、何も持ってきていない。
診察時間がかかるのを見越し、その間友人は自宅に戻り、とりあえず水と食べ物と、日本製品があるほうが安心するだろうという気遣いか、Green Tea、Miso Soup、Kitkat抹茶味などを持ってきてくれた。
さらに電話も必要だろうと、SIMカードまですぐに使えるようVodafoneで契約してきてくれた。さすが地元!気が利く!!
「明日また必要なものを持ってくるからリストに書いておいて」と言われ友人とお別れ。
日本からやって来た友人が、飛んだトラブルを持ってきたと思われていないか、申し訳なくなった。
友人の午後を全てつぶしてしまった。
しかしおかげでスムーズに入院できて、ある意味マルタ人友人宅に泊まっていたのはラッキーだった。
昨夜の授賞式から一転、初めてのマルタでの入院生活がスタート。
この時19:30。
朝ごはんから何も食べていないお腹はぺこぺこで、初の病院食を待っていた。
★マルタで病気、怪我をしたら
1・Mater Dei Hospitalへ
2・緊急でない場合、軽症の怪我・病気の場合は街の診療所でまず診察。その後1のMater Dei Hospitalで再診必要な場合は紹介状をもらい1へ
▼Mater Dei Hospital
Triq Dun Karm, L-Imsida, MSD2090, マルタ